平安文学の代表作
平安文学といえば「源氏物語」と「枕草子」が有名です。
「源氏物語」は光源氏の華やかな貴族のお話、「枕草子」といえば『春はあけぼの…』から始まる高尚な随筆、というイメージがありませんか。
以前の「落窪物語」でも書きましたが、私は「枕草子」が大好きです。
私の中では、「源氏物語」は光源氏や周りの女性の苦悩の物語、「枕草子」は中宮定子の華やかさ、素晴らしさのアピールと清少納言独自の視点が光る明るいエッセイというイメージです。
しかし、私が「枕草子」が好きな理由は、明るいエッセイの裏にある壮絶な運命が見え隠れするところです。
「枕草子」を書いた人は
清少納言という人で、一条天皇の中宮(正妻←ココが壮絶な運命部分に関係します)定子に仕えた下っ端貴族出身の女性です。
下っ端貴族とはいえ、一般人とは雲泥の差。
教養があるキャリアウーマンです。
「枕草子」の内容①エッセイ
清少納言がどんなことを思っていたのかがよくわかります。
何が素敵か、
イライラするのか、
ドキドキするのか、
ガッカリするのか、
など、今の人が思うことと同じことを書いています。
他にも、
人のやらかしたことは平気で笑いものにする、
貴族以外はゲスと見下す、
若くないのはダメ、
など、今の時代からすればそんなことたとえ心の中で思ってたとしても書いちゃっていいの?というようなものまで。
昔ですので、プライバシーや人権侵害なんてものはないので、思うままに書いています。
(ただし、昔は身分が絶対ですので、身分が高い人のことはとても素晴らしく書かれています。)
そのため、千年以上前に書かれたものとは思えないほど『あるあるっ!』と共感できます。
人が思うことなんてたとえ何千年経っても何の変りもないんだなあとしみじみ。
「枕草子」の内容②定子の出来事
清少納言の観察力は素晴らしく、平安貴族ってこんな感じで暮らしてたんだ~と情景が浮かんできます。
すべては面白おかしく、定子はキラキラと輝いて書かれています。
しかし、書かれている大部分の時期は、実は定子が落ちぶれていた時のことです。
清少納言が仕えた定子とは
当時の天皇は一条天皇といいます。
その一番の奥さんが定子です。当時日本一のお嬢様。
定子の悲劇の始まり
清少納言が定子のもとに仕えるようになって割とすぐに定子のお父さんが亡くなります。
さらに当時一番権力を握っていた定子のお父さんの兄弟は、一番下の弟の藤原道長(超有名人)以外は次々と亡くなります。
天皇の奥さんというのは実家がしっかりしていてなんぼのものですから、頂点にいた定子はお父さんが亡くなると、落ちぶれる以外ありませんでした。
一条天皇との仲がよかったのが救いでしたが、その時点ではまだ子ども(皇子)はいませんでした。
藤原道長がトップに
定子には兄がいて、お父さんの代わりに定子を支えますが、道長とはライバル関係になります。
道長はいちゃもんをつけ、とうとう定子の兄を排除し、権力を握ります。
そしてここぞとばかりに娘の彰子を一条天皇の奥さんにします。
天皇の正妻は一人であったのを、無理やり定子を中宮→皇后、彰子→中宮にして二人を同時に正妻とさせます。
もちろん自分の娘に男子を産ませることが目的です。
当時は天皇の子どもは奥さんの実家で育てられます。
おじいちゃんと同居するのですから、必然的におじいちゃんに懐きます。
大きくなって天皇になるとおじいちゃんには頭が上がりません。
おじいちゃんの思うままです。←回りくどいやり方ですが、これで権力を握ることができます。道長は4人の娘を4代の天皇に順番に嫁がせて権力を握ったために有名になりました。
この道長がまさに平安貴族というような陰険な感じ(定子のお父さんも結構強引だったみたいなので、どっちもどっち?)。
「源氏物語」を書いた紫式部との関係は
紫式部は道長の娘の彰子に仕えていました。
紫式部も陰険な感じでしたので道長とは相性ピッタリです。(定子や定子のお父さん、清少納言は性格は明るかったみたいですが、彰子はとてもおとなしい人だったようです。)
清少納言に対する批判を強烈に書いていることは有名です。
ただし、清少納言と紫式部が同時期にキャリアウーマンをしていたわけではありません。
定子が落ちぶれて清少納言もいなくなった後に紫式部が仕えるようになりました。
紫式部が清少納言を嫌ったのは、清少納言が紫式部の夫の服のセンスを笑い者にしたからとか言われていますが、自分と正反対の性格の清少納言が鼻についたのでしょうか。
また、定子の頃の後宮(天皇の奥さんが住んでるところ)は明るく楽しい雰囲気であったのが、彰子の時代になると大人しく静かな雰囲気になり、周りの貴族達から比べられて昔はよかった、みたいに言われていたようなので、よけいに清少納言に対するライバル心があったようです。
定子の最後
定子は道長から様々ないやがらせを受け、落ちぶれていきます。
そして定子は一条天皇の子どもを3人産みますが、3人目の出産後亡くなります。
「枕草子」に書かれているのは、いやがらせをされている真っ最中のことですが、そんなことは微塵も感じさせないほど明るく楽しげに書かれていて、辛い心を隠してここまで素敵に書けるのか、と感動します。
定子の死後
「枕草子」には書かれていませんが、定子の子どもは彰子に育てられます。
定子と彰子はいとこ同士ですが年齢はかなり離れています。
彰子は定子の子どもを大切に育てて、自分の子どもよりも定子の子どもを天皇にするよう父の道長にお願いしたそうです。
もちろん道長はそんなお人よしではありませんので却下。
彰子はお父さんをだいぶ恨んだみたいです。お父さんと違い、とっても優しい人ですね。
その頃、清少納言がどうしていたのかはわかりません。
私が古文を勉強したのは受験勉強だけなので、原文などとても読めません。
何冊か現代語訳を読んだだけですが、一番好きなのが「桃尻語訳 枕草子」です。
訳文はしゃべり言葉(ほぼ直訳だそうです!)で、なんといっても註がとても詳しいのがいい。
全くの初心者向けではありませんが、ちょっと平安時代が好きで当時のことを知りたいと思う人なら読み応えバッチリです。
終わり